論文要旨

都市近郊の離島におけるライフヒストリー研究
共同体とその役割はいかに形成されるか

上村 浩一

藍島とは、北九州市の小倉近郊に位置する離島であり、浜崎俊和氏は、島在住の今年70 才になる老人である。私が浜崎氏に注目した理由は、実に多彩な肩書を持っており、さらに彼が昔からの島の住人ではなく、15 才の時、母親の再婚に伴って島に渡ってきた連れ子であるという点による。
小さな共同体では、人間関係は狭く血縁などのより深い結びつきが重要な意味を持つことが多い。実際、藍島でも古くからある家が共同体の運営に関する政治的な力を持っており、村の中心的役割を果たしていた。母親の連れ子として島に移り住んだ浜崎氏は、そのような島社会にいかにしてとけこんでいき、そしてどのような変遷を経て現在の地位を築いたのだろうか。
そこで、浜崎氏が生まれてから島に来るまでのこと、それからの島での生活、結婚、仕事、彼の人生観などを手がかりに浜崎氏のライフヒストリーを作成した。
彼の仕事の変遷を追ってみると、そこにはひとつの共通点が見えてくる。それはすべてがいわゆる公的機関に準ずるような内容を持っており、資格などの問題もあって、誰もができる仕事ではないということだ。
また芸能のなかった村のために始めたアコーディオン演奏や、年に十数回をこえるマラソン参加など、趣味やスポーツにおいてもかれの独自性はおおいに発揮される。
すなわち「誰もやらない独自性を追求すること」、「自分の役割を人々に認識させること」この二点によって浜崎氏は、島社会のなかで人々の信頼をえながら、確固たる地位を築いてきたのである。

 

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