論文要旨

壷中の聖水
インドにおける豊穣性と浄化性の自然観

脇園賀子

暑さと乾燥が厳しい北インドでは、いたるところで土器の水壷を目にする。この壷はマッカ(matka)とよばれ、多くの人々の必需品である。マッカは、釉薬をかけずに焼成した素焼きの状態であるため、壷表面から水が蒸発するときに発生する気化熱が壷中の水を冷やし、表面の小さい穴が不純物を吸収する。このような水の冷却機能や濾過機能を持つマッカは、インドの気候や風土に非常に適している。
これまでの土器文化の研究は、土器製品の作り手であるクムハル(註1)の人口変化、土器製作に用いる道具や技術の後進性、土器の種類や製作技術におかれてきた(Saraswati 1966,1979; 鹿野1978;Krishnan 1989;関根 2001)。だが本論文では、土器の使い手の視点に立ち、人々は土器をどのように使用し、土器にたいしてどのような意識を持っているかに重点を置く。本研究では、マッカと同じ機能を持つ冷蔵庫や浄水器を所有する人々も、マッカを好んで使用していることを明らかにした。中には、浄水器に通した水をわざわざマッカに移し変えて飲料水としている事例もあった。冷蔵庫や浄水器を所有しながらもマッカを必要とする理由は、その機能からだけでは説明がつかない。マッカの根強い人気は、壷や水への聖性にたいする信仰が関係していると考えられる。

 

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