論文要旨

ふさわしい酒
泡盛・花酒・ミリントゥ、与那国社会における酒の格

山本 雄大

 沖縄県には、沖縄文化を代表する2種類の酒「泡盛」と「ミキ」がある。泡盛は一般的に沖縄の酒として知られる蒸留酒、ミキは全国的にはあまり知られていない、儀礼に際してのみ作られる粥状の醸造酒である。泡盛が商業的な商品であるのに対して、ミキは非商業的な密造酒であるように、2つの酒は対照的な存在である。沖縄を旅するうち、泡盛とそれを飲む人々に興味を持った私は、二本最西端の与那国島にある1軒の酒造所で働きながら、約5ヶ月間の調査を行った。
 与那国島では、泡盛とミキに加えて「花酒」というアルコール度数60度の酒が作られている。花酒は、酒税法上の特例で与那国島のみに製造を許可された酒で、沖縄県でもあまり知られていない。また調査するうち、与那国島には島外ではほとんど知られていない「ミリントゥ」という密造酒が飲まれていることを発見した。与那国島では、ミキ・泡盛・花酒・ミリントゥという4種類の酒が作られているのである。
 これらの酒が飲まれる様子を見ると、それぞれの酒が場面ごとに使い分けられていることが分かる。ミキは神に対してささげられる酒だが、泡盛・花酒・ミリントゥは人に対して振舞われる酒であった。与那国島の3つの人に対する酒は、場に対するふさわしさによってそれぞれ格付けされ、使い分けられているのである。
 これらの酒について詳しく調査を進めるうち、与那国島だけ特殊だと思われていた花酒が、実は戦前まで沖縄県各地で作られていたことが判明する。さらに、ミリントゥもまた、戦前まで日本全国で飲まれていた味醂酒が、かろうじて残っている物である可能性が強まった。これらの酒は、人々に忘れられてしまったのだ。
 花酒とミリントゥは与那国だけで昔から作られてきた酒ではなく、与那国以外では作ることをやめってしまった酒であった。この原因には、酒税法の画一的な規制や、商業的なコストの問題などが挙げられる。ではなぜ、与那国島だけが作るのをやめなかったのだろうか。その理由こそが、与那国島社会での酒の格付けである。現在、花酒が法的に特例で認められているのも、この格付けの存在が理由となっている。しかし、残っているからこそ、酒が格付けされているのだともいえる。残っていることと格付けされていることは、互いに絡み合いながら、与那国社会のある断面を覗かせているのである。

 

HOME MAIL TOP