論文要旨

怒られるから叱られるへ−規範の意識化と共通意識の形成
−あゆみ共同保育所の実践より

山下 あゆみ

本論文の調査は、北九州市八幡西区にある、あゆみ共同保育所で行われた。あゆみ共同保育所では、「叱る」、「怒る」という行為を「要求する」ことだと捉えている。あゆみ共同保育所での生活の中で、筆者の考える「叱る」、「怒る」とあゆみ共同保育所での「叱る」、「怒る」に違いがあることに気づいた。 多くの育児書では「叱る」と「怒る」を厳密に区別しているものは無いといってよい。
そこで本論文では、第三者の視点から「叱られる」、「怒られる」の判断をし、「叱られる」は主張者と受け手の間で、咎められることに関する「善悪知識の共通認識」があること、「怒られる」は主張者と受け手の間で、咎められることに関する「善悪知識の共通認識」がないこと、であると定義づけるに至った。
「怒られる」は「叱られる」の前段階であると同時に、「善悪知識の共通認識」を得る機会でもある。そして、「叱られる」が繰り返されることにより、様々な状況や理由といった「善悪知識の共通認識のストック」が増え受け手の社会化を促し、社会性を高めるのである。
「叱られる」ではしてはいけない理由の意識化が、「怒られる」ではしてはいけない理由の無意識化がそれぞれ行われている。そして、「怒られる」から「叱られる」への一連の流れの中で、自己主張の原動力ともいえる善悪の根拠がつくられているのである。
「叱られる」、「怒られる」は受け手への効果を考え、適切に行われなければいけないものであり、「叱られる」、「怒られる」を「要求」として捉えているあゆみ共同保育所では責任をもって「叱られる」、「怒られる」が適切に行われる環境ができているといえる。

 

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