論文要旨

見えない壁を叩き続ける−隔離はいつ終わるのか
奄美大島・熊本ハンセン病療養所でのフィールドワークを通して

吉田 幸恵

本論文の調査地は、奄美大島及び熊本県合志市の国立ハンセン病療養所である。
明確な物理的隔離状況下におかれたハンセン病元患者たちは90 年もの間、繰り返し改定され続けた「らい予防法」に縛られていた。1996 年、「らい予防法」は廃止され、筆者は、隔離の歴史はもう閉じたものと思っていた。
筆者は調査地でフィールドワークを行い、そこで出会ったハンセン病元患者たちと接する中で様々な違和感を覚えた。悪しき法は廃止され、国は隔離されてきた人々の生活を保障した。自由に療養所を出入りしてよいという状況で、筆者は「ハンセン病における隔離問題はもう過去のことである」と感じており、「隔離された人たちの今」に注目したいと考えた。筆者の想像していた「理想的な元患者像」通りの元患者は確かにいたが、それとはかけ離れた元患者にも出会った。そのような人たちの意見を聞くうちに筆者は混乱していくのだった。
フィールドワークに出た当初の筆者は、隔離がもたらした今も残る様々な弊害に目をむけず、ただ元患者の言動が理解できないという感情を抱いていた。しかし、それは一面的なものの見方であり、筆者が抱いた感情こそがまさしく彼らを隔離に追い込み、現在の彼らを苦しめている世間の目に共通するものである事に気付いたのである。問題は国の施策や物理的隔離状態ではなかったのだ。
フィールドワークを行った筆者が体験した違和感を、元患者たちの視点から再考する事によって「隔離とは何か。何が起きている状態なのか」を考えることが本論文の目的である。

 

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