論文要旨

公私の輪郭
北京・陶然亭公園における健康活動の事例から

秋好 裕子

はじめに 中国の朝の公園には、たくさんの人が集まってくる。特に定年を迎えた高齢者にとっては、それが日課になっている場合が多い。中国の一般的な定年の年齢は、男性管理職が65歳、女性管理職が55歳で、管理職以外ではそれぞれ5歳ずつ早い。実際の定年年齢よりも、5年ほど繰り上げて早く退職する人もいるという。北京の大規模な公園は、観光地として国内外から多くの観光客を集めている。陶然亭公園は、それらと同等の広さであるが、観光客の利用は少なく周囲の住民の利用がさかんな公園である。有料であるにもかかわらず毎朝多くの住民を集めている。早朝には広大な湖に向かって張り上げる無数の声が聞かれ、それぞれの活動にいそしむ人々の姿が見られる。筆者には、北京で生活する人々にとって、それが老後の過ごし方の一典型であるように感じられた。また、早朝から気功や太極拳を行う中国の公園の風景は、一般的にもよく知られているが、実際には予想していた以上に多様な活動が見られた。 本論文では、陶然亭公園で見られる活動や人々の意識を例に、中国人にとって公共空間とは何かを考えたい。公園利用の仕方は日本と中国では大きく異なる。中国の公園利用は、日本のような不定期で個人的な利用だけでなく、毎日グループや個人で決まった活動を続けているものが見られる。本論文では、公共空間における対人関係のありかたが、公園での活動や利用のしかたの違いを生みだしているのではないかという仮説をもとに、公園という公共空間の利用と中国人の対人関係について考察する。

 

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