論文要旨

蛍光色への傾倒
ペルー・タキーレ島の織物文化の現在

木野理恵

 ペルー・タキーレ島は、伝統的に織物作りが大変盛んなところである。島民は男女ともに織物を織る作業をこなす。元来、島民の生業活動は食物を得るための農作業、糸の加工からを含めての織物作り、毛や肉を得るための家畜の世話などであった。また、織物を近隣の他の地域の人と交換し、自分達が生産していない農作物などを手に入れていた。しかし、近年この「織物」や「伝統的生活」を特徴として観光客を集めており、これによって島には貨幣経済が導入され、「織物」や、「伝統的生活」は大きく変化している。
観光地化による変化として、島民は観光客用の織物(みやげもの)を作る、自分達の伝統である製品の色を変えるといった変化が起こっている。特に観光客用の織物は、個々人の現金収入に直接結びつくため、それらの生産者である島民は観光客の好み、嗜好の傾向を気にしている。例えば従来は作っていなかったつばつきの帽子や、鞄などの小物は、自分達では使わないが観光客用として新たに作っている織物製品である。  しかし、製品のデザイン(色、模様など)に関して、必ずしもそのようにして作る織物製品が観光客の好みを反映してはおらず、むしろ極めて生産者の好みの反映になっていると思われる。たとえば、観光客は「伝統的」草木染めを模したようなくすんだ色合いの織物を求めることもあるが、売っている織物全般的に化学染料によるはっきりした色や蛍光色のものが多く、これは日常において島民が積極的に自身の衣装に取り入れている色である。
 本論文では、タキーレ島民が作成する織物に焦点をあて、外部からの影響によりそのような伝統的物質文化のデザインがどのように変容するのか提示し、またなぜそのような変容の仕方を見せるのかについて考察する。  伝統的文化はその社会において慣習であり、その技術は受け継がれていくものである。だが、原材料に関係する新しいマテリアルを手に入れるなど、影響があったとき、その物質文化を物質文化たらしめている部分以外で(それを決めるのは生産者の裁量である)、積極的な変容が認められる。その生産者の好みともいえる変容は、変容であるが、結果的には彼らが思う彼らの物質文化に帰結し、「伝統的」物質文化になるのである。

 

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